夜景が綺麗なんだって!そう言ってこの日は女4人が初めて窓際に貼り付くように集まった。ピンクのカーテン1枚で仕切られた大部屋で、これまでは術後すぐの痛みを抱えて喋りもしなかった間柄だが、2人が明日退院することになり顔を出したのだ。
お互い初めて見る顔。私以外は全員白髪だった。それでもくだらない話で笑い合い延々と盛り上がった。飛行機がいっぱい飛んでるわね、とか暴走族昨日来たわね!見てみたかった〜(みんなお腹痛くて飛び起きられない)とか、40年前はこの辺何もなかったとか大したことのない話だ。一人が言った「女ね〜」それだけでゲラゲラ笑えた。オチのない話でも女同士ってのは笑い転げながら何時間だって盛り上がれる。
双子が産まれたこの病院は数年後に移転する。そこから海は見えない。
「この景色を4人で見るのはこれが最後ね。見納めしましょ」「ここでまた会わないようにしましょ」そんなことを言ってるうちに消灯の時間になった。
みんな毎日ほとんど寝たきりなのに、戻るのが惜しいと思うほど立って喋っていた。喋って笑い合ってる時は痛みはほとんど感じなかった。ストレスもなかった。孤独と痛みはセットなのかもしれない。おしゃべりするお友達って大事なんだな、と思うと同時に、そこまで回復したことに感謝した。
明日から新しい入院の人が来る。月曜には誰かの手術だ。術後は人と話せる余裕は皆無で大きな声が傷に響くのも知っている。緊張感が走る。私たちはいつかここを退院していくが、医療現場の人たちは日々その緊張感と繰り返し向き合っているのだ。
束の間のひととき、腹を切った女同士4人で夜景を見ながら楽しい時間を過ごしたことを私は忘れない。